株式会社トラベルウィズドッグ
代表取締役社長 中村貴徳インタビュー[前編]

中村貴徳インタビュー[前編]

始まりは、亡き母から託された1頭の愛犬からでした。
ペットと旅することが当たり前といわれる未来を目指して。

愛犬のために製作した特注ペットカート (後のマザーカート)に注文が殺到

―中村さんがペットに関わるお仕事を始めるきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

 今から15年前、私の母は癌に侵され壮絶な闘病生活を送る日々が続いていました。母は、私が病院へ見舞いに行く度に「大将(母が溺愛していた愛犬の名前・シーズー犬・男の子)は元気にしている?」と愛犬の心配ばかりをしていました。やがて病気も進行し、死期を悟った母親は『大将を世界一幸せにしてあげてね』との遺言を私に残し、56歳という若さでこの世を去りました。
当時私は30歳、年に2回行く妻との海外旅行が何よりも楽しみで、親孝行など全くできる男ではありませんでした。しかし母の死をきっかけに、私ができる唯一の親孝行は、母が託していった愛犬・大将を、世界一幸せにすることでした。 

しかし、私たち夫婦が海外旅行に行くということは、大将を檻の中に入れて留守番をさせるということ。もし母が生きていたら「大将を檻に入れて出かけるなんて!」と相当怒られると直感した私たち夫婦は、これを機会に海外旅行は諦め“大将と日本一周の旅をしよう!”と決意したことが、今の道を歩き始める最初の一歩となりました。

―愛犬と日本一周の旅なんて素晴らしいチャレンジでしたね。

 今でこそ、ペットを連れて旅行に行くことは珍しいものではなくなりましたが、当時、ペット連れ旅行はあまり歓迎させるものではありませんでした。
観光地に行っても「犬はダメ!」と言われ、観光名所にはほとんど入れず、またその周辺を散歩しているだけで、後ろから肩をたたかれ「あそこにうんちが落ちている、お前のところの犬のだろ!」と言われてみたり「こんなところに犬なんて連れてくるな!」と怒鳴られたり、良いことよりも悪いことの方が多かったかもしれません。 

―そんな中村さんが、旅を継続できたのはなぜですか?

 大将と本格的に旅を始めるうちに、気が付けば彼の年齢も14歳を迎えていました。それまで元気に歩き回っていた彼も、年を重ねるうちに長い距離を歩くことが辛くなり、それがきっかけとなり、ホームセンターで販売されていたペットカートを購入したのです。そしてそのペットカートに乗せて旅に出たところ、今までのネガティブだった旅が劇的に一転したんですよ。
「わんちゃんが乳母車に乗ってる」「可愛いね?」と、観光客の方々が優しい声を掛けてくれるようになったんです。これは驚きと共に、すごく嬉しかったことを今でも鮮明に記憶しています。しかしそんな優れもののペットカートにも、最大の欠点があったんです。

 

 

―それはどのようなものですか?

 日本全国の観光地は、ほとんどが自然と一体化して存在しています。当然道も舗装路ではなく、凸凹道や芝生道、砂利道がほとんどなんです。そんな道を、私が購入したペットカートはスムーズに進んでくれませんでした。しかし同じ道を逆側からくるベビーカーはスムーズに前に進んでいる! 「何故だ? この違いはいったい何なんだろう」と東京に戻り、ベビー用品屋さんにベビーカーを見に行ったところ、ベビーカーとペットカートの作り(強度)の違いが歴然としていたんです。そこでインターネットを駆使し、世界中で販売されているペットカートを調べたのですが、我が家が求めているペットカートは存在しませんでした。

―それがきっかけで、後のペットカートブームを巻き起こす1台のペットカートが作られたんですね。

 はい。「世の中に無いのであれば自分で作るしかない」と思い立ち、愛犬たちのためにペットカートを作り始めました。初めは市販されているものを購入し、車輪を取り変えてみたりと色々試しましたが、素人が手作りするんですから、良いものが作れるわけもなく、時間と費用だけがかさんでいきました。
そこで自分で作ることを諦め、有名ベビーカーメーカーに電話をしまくり、製作をお願いしましたが「犬のものは作らない」と断られ続けました。しかし私は諦めることができず、下町にある小さなベビーカー製造会社に連絡をし、自らの愛犬も連れて行き、誠意をもってお願いをし続けたところ、何とか特注で製作を引き受けてもらうことができたのです。

ただし、特注で作るということは時間も費用も莫大にかかります。それでも少しでも愛犬たちに快適な空間を与えてあげたくて、1年半の歳月で計7台もの試作品を作り続けました。気が付けば費やした費用も300万円を超えていました。私は「人間のエゴで犬たちを旅に連れて行くのだから、少しでもこの子たちに快適な空間を作ってあげるのは当たり前」との思いに一切の迷いはありませんでした。それが後のペットカートブームを生んだ“マザーカート誕生”秘話なんです。

―覚えていますよ、すごい勢いで世の中に普及していきましたよね。

そうですね、しかしこのカートは私の家族、子供である2頭の愛犬たちのためだけに作り上げたものだったので、販売する予定はなかったんですよ。
こう語る中村さんが、この後、ペットとのお出かけの常識を変えていく。そして第二章となる「ペット専門旅行会社」を立ち上げるまでは、次号でお伝えいたします。

中村貴徳インタビュー[後編]

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