TraveLWithDog vol02
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21Winter 2015す。そしてそのペットカートに乗せて旅に出たところ、今までのネガティブだった旅が劇的に一転したんですよ。 「わんちゃんが乳母車に乗ってる」「可愛いね〜」と、観光客の方々が優しい声を掛けてくれるようになったんです。これは驚きと共に、すごく嬉しかったことを今でも鮮明に記憶しています。しかしそんな優れもののペットカートにも、最大の欠点があったんです。―それはどのようなものですか? 日本全国の観光地は、ほとんどが自然と一体化して存在しています。当然道も舗装路ではなく、凸凹道や芝生道、砂利道がほとんどなんです。そんな道を、私が購入したペットカートはスムーズに進んでくれませんでした。しかし同じ道を逆側からくるベビーカーはスムーズに前に進んでいる! 「何故だ? この違いはいったい何なんだろう」と東京に戻り、ベビー用品屋さんにベビーカーを見に行ったところ、ベビーカーとペットカートの作り(強度)の違いが歴然としていたんです。そこでインターネットを駆使し、世界中で販売されているペットカートを調べたのですが、我が家が求めているペットカートは存在しませんでした。―それがきっかけで、後のペットカートブームを巻き起こす1台のペットカートが作られたんですね。 はい。「世の中に無いのであれば自分で作るしかない」と思い立ち、愛犬たちのためにペットカートを作り始めました。初めは市販されているものを購入し、車輪を取り変えてみたりと色々試しましたが、素人が手作りするんですから、良いものが作れるわけもなく、時間と費用だけがかさんでいきました。そこで自分で作ることを諦め、有名ベビーカーメーカーに電話をしまくり、製作をお願いしましたが「犬のものは作らない」と断られ続けました。しかし私は諦めることができず、下町にある小さなベビーカー製造会社に連絡をし、自らの愛犬も連れて行き、誠意をもってお願いをし続けたところ、何とか特注で製作を引き受けてもらうことができたのです。 ただし、特注で作るということは時間も費用も莫大にかかります。それでも少しでも愛犬たちに快適な空間を与えてあげたくて、1年半の歳月で計7台もの試作品を作り続けました。気が付けば費やした費用も300万円を超えていました。私は「人間のエゴで犬たちを旅に連れて行くのだから、少しでもこの子たちに快適な空間を作ってあげるのは当たり前」との思いに一切の迷いはありませんでした。それが後のペットカートブームを生んだ〝マザーカート誕生〞秘話なんです。―覚えていますよ、すごい勢いで世の中に普及していきましたよね。 そうですね、しかしこのカートは私の家族、子供である2頭の愛犬たちのためだけに作り上げたものだったので、販売する予定はなかったんですよ。 こう語る中村さんが、この後、ペットとのお出かけの常識を変えていく。そして第二章となる「ペット専門旅行会社」を立ち上げるまでは、次号でお伝えいたします。Profile「(愛犬の)大将を長生きさせて」。母親の遺言から、大将を連れた日本一周を開始。2009年達成。ペット専門旅行会社TRAVEL WITH DOGと、オリジナルペットカート「マザーカート」の販売を手掛けている。中村 貴徳 氏TWD代表取締役社長
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